「光の帝国」 キム・ヨンハ著、宋 美沙訳
昼の空と夜の風景の同居、この不思議なマグリッドの絵「光の帝国」 が表紙
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韓国に潜入した北朝鮮のスパイに突然の帰還指令。
20年もソウルで暮らし、すっかり普通の市民になった男の24時間の苦闘と苦悩を描いている。
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北朝鮮で過ごした少年時代と、すっかり体に染み込んだ韓国での暮らし。

帰還指令に抱く疑惑、友人との関係、愛人とのやり取り、家族間でのいざこざ、それらをどのようにしようかと苦闘する。

それまで、いわば成り行きに任せて過ごして来た主人公だが、24時間という期限をきられた中で過去の清算とこれからとるべき行動に対し、強引に結論をだそうとする様が、可笑しくもあり哀しい。

サスペンスの雰囲気はあるが、悲哀さが漂う中年男の主人公を通して、韓国の生活風俗を見せてくれる小説。

表紙が暗示するイメージと合っている。


「時が滲む朝」 楊逸著
あまりパッとしない表紙。
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中国青年の、夢と挫折と、その後の日本での小市民的平和を描いている。
若き夢多かったひたむきな青年が、国家権力というより、大きな時代の流れに翻弄されていく様が切ない。
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主人公のその時々の思いは、朝陽の中で滲み出てくる。
漢詩には少し驚いたが、こういうのも悪くはない。 

天安門事件から、その後の日本での平穏な暮らしを描くのに、150ページはいささか少ない。 ダイジェスト版のよう。
しかし逆にその不足した分、読む側に自由な思いを抱かせるものがある。

一般の評価は芳しくないようだが、わたしの心には染みた作品。

過ぎし日の、ほろ苦き思い出に、乾杯!

「東京島」 桐野夏生著
表紙から想像するに、島内のしようがない話かな?
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南海の無人島に漂着した、女1人、男30人以上のサバイバル物語。
最初は日本人だけだったのが、その後中国人も島に置き去りにされて、互いに反目しながらも過ごしていく。
夫をクジ引きで決めるという書き出しに驚くが、劇的な物語展開があるわけでない。 エゴむき出し、ナンセンスな話で進んでいく。
最後は一気にワープした感じ。
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システマティックに団体行動し生活力のある中国人グループと、享楽的生活をし、勝手でばらばらな日本人を、文化対比的にシニカルに描いている。
いかにも荒唐無稽と分かるので、読んでて気楽。 でも女ひとりであることのメリットを存分に生かそうとする主人公には、いささか呆れるほど。(女はしたたかですね)

本当のホラ話。

「わたしを殺して、そして傷口を舐めて」
表紙がちょっとセクシー
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原題は“レッドキャット”内股に猫のタトゥーがある女が謎の中心。
しがない探偵稼業の主人公ジョンは、銀行家の兄から仕事の依頼を受ける。
兄は、インターネットの出会い系サイトを利用し、つかの間の大人の付き合いを楽しんだつもりだったのが、ストーカーまがいの脅迫を受けることになった。
その相手を探し始めるうちに、話は意外な展開を見せる。兄は罠にはめられたようなものだった。インターネット、映像制作、警察を舞台に状況が少しずつ切り替わりながら、核心に迫っていく。
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ストーリーは素直。犯人捜しも、劇的な展開はなく、順を追っていて不自然さがない。

気楽そうに見える主人公は、横柄さも含んだ兄の醜態を眺めつつも、彼を憎みきれない人の良さを表している。
登場する主人公の愛人とのやりとりは、物語を進める上での息抜きのよう。

情景描写などは、話と関係あるのかな、と思わず考えさせられる程。やはり始めに言葉ありきの世界なのかな。

言葉が多いと感じた作品。

<余計な一言>
そういえば、“羊の目”の主人公を生んだ夜鷹の女の内股にも、赤い牡丹の刺青がありましたね。

「羊の目」を読んで
藍色の表紙が渋いですね。
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夜鷹の女が、男と見込んだ侠客に子供を預け、その子供が侠客の元で刺客に育っていくという話。
昭和初期から現代まで、浅草、網走から海外まで舞台は広がる。
高倉健さんをイメージしたような小説です。
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ヤクザ映画同様の小説かなと、手に取ったときは思ったのですが、これが結構面白い。
テンポが速い、歯切れが良い、あまり長々とした描写が続かない。

古き男気あふれる任侠から、容赦ないヤクザの世界に時代は変わっていく。
その中で、主人公は、ブレることなく、ただ一筋、オヤジさんのためを貫いていく。

冷たさを感じさせる主人公と、彼をつけ狙う男たち。
そのやり取りの描写もいいですね。

その姿に惹かれるのは、フィクションだと分かっているからでしょうね。
現実の世界だったら、恐ろしくてしようがない。
私は、劇場ではヤクザ映画は見ませんでしたが、かつて人気があったのも分かるような気がします。

でも、今はそのような映画はないですよね。 
あってもたぶん見ないでしょうけど。
なぜって、それはかっこいいヤクザがいるとは思えないから。
暴力団という言葉で、もうすっかり社会の悪というイメージが定着している。

本の中だけで楽しむ、古き懐かしき任侠の世界ですかね。

面白いエンターテーメント小説



「ダブル・ファンタジー」 読書感想
ヘアーヌード写真のカバーデザインとは驚きました。
でも表から見えないのが、せめてもの自粛なんでしょうね。
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主人公の脚本家が自身の制作方向を模索しながら、男性遍歴するストーリー。
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女性作家による官能小説は醒めた目で男を見ることが多いように感じています。

登場人物に、なかなかいい男は出てこないですね。
最初は良さそうでも、ずるさ、御都合主義、自分勝手がしだいに現れてくる。
う~ん。 でも当たっていますね。 

女の芯の強さを感じさせます。

官能小説の体裁をとっていますが、男を醒めた目で見ていますので、男性読者からの評価はあまり良くないでしょうね。
えっ、こんな風に思っているの、、、てな感じで。

でも、女性も強いというか、たくましい方が良いですよね。




「五星大飯店(上) Five Star Hotel」 読書感想
現代中国のベストセラー作家という宣伝に惹かれて読みました。
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一流ホテルマンを目指す地方出身の青年と、その隣に住み、ダンサーを目指す若い女性とその仲間たちが、ホテルの買収劇に巻き込まれると言うストーリー。
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主人公は、飄々とした印象があり、いろんな出来事を揉めながらも結局はこなしていく。 
チョット出来過ぎに感じるが、エンターテーメントだからしようがないですかね。
ワンカットのシーンが短く、複数の場面が同時並行で進んでいく。
まさに、映像を意識した内容と思わせます。

確かに、面白いが、
安心して見られるテレビドラマの感じがあります。

チョット軽い。
「渇いた夏」 読書感想とは行かないまでも
本格的ハードボイルドミステリーとの宣伝文句に惹かれて読みました。
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主人公の探偵は、伯父の死の真相を確かめるうちに、次第に事件に巻き込まれていく。
20年前の出来事が、常に底流に感じられる。
そして驚くべき結末。
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主人公はダンディーで古いBMWに乗っている。
登場するチョット蓮っ葉なイイ女、と謎の女。
北方謙三ほど過激ではないがそれなりの暴力シーン。

ハードボイルドミステリーに必須な役者はすべてそろっている。

主人公がスーパーパワーの持ち主でないところにも親近感を感じますね。

ストーリー展開はどちらかというと素直。

ウン、楽しめました。
読んだ後が心地良かったです。





「悼む人」 読書感想
直木賞候補とは知らずに1月頃読みました。
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主人公は、面識のない人々の死を悼む旅を続けている。
夫殺しで刑期を終え出所した女、
彼を偽善者と決めつけそれを暴こうとする新聞記者、
主人公の母、
が章別の登場人物となり物語は進んで行く。
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主人公の悼むという行為は、巡礼姿そのもの。
彼はいったい何の目的で巡礼を続けるんでしょう。

死者を覚えていると言う行為はいったい何なんでしょう。
それは死者にとって安らぎなんでしょうか。
違いますよね。

もし自分が死んでも誰かが記憶しておいてくれるという事、
自分が存在したことを覚えてくれる人がいる。
偲んでくれる人がいる。

そういう思いがあれば、
良く生きようとするのではないですかね。

う~ん。 巡礼者ですかね。

重い内容です。